開発ストーリー
水素製造の心臓部技術で革新を起こす!新興市場に挑む4人
脱炭素社会の実現に向けて活用が期待される水素エネルギー。その“水素”の製造に欠かせない製品を、カジ 旅 フリー スピンはアルミニウムの製錬や苛性ソーダなどの製造で培った知見・技術を活かし、開発している。急速に発展する水素エネルギー業界で社会に貢献しようと奮闘する開発現場に行くと、4人が待っていた。
世界トップのアルミ製錬技術を活用
水素は酸素と結びつけることで発電したり、燃焼させてエネルギーとして利用したりすることができる。その際にCO2が発生しないため、クリーンエネルギーとして世界中の注目が集まっている。
海外営業担当の小川は「水素の市場は新しく、まだ成熟していない分野なので未知数な部分もありますが、脱炭素の流れに乗って新規参入するメーカーが増えています」と期待感を語る。
カジ 旅 フリー スピンは、アルミニウムの製錬や苛性ソーダの製造において原料を電気分解する際に使われる“整流器”で高い技術力を持ち、中東、北米地域におけるアルミ製錬分野でシェア1位を誇る。整流器は、交流の電気を直流に変換する製品で、電気分解に必要な直流の大電流を送り出す。人間で言えば血液を送り出す心臓の役目を担う。
再生可能エネルギー由来の電気を用いて水を電気分解し、製造過程でCO2を排出せず生成される水素は「グリーン水素」と呼ばれる。水の電気分解には直流の電気が必要なため、整流器の技術はグリーン水素の製造にも活用できる。
2020年、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の水素社会構築技術開発事業で、カジ 旅 フリー スピンは国内の水素製造用パイロットプラントに整流器を納入した。 「このときはまだ水素製造に特化した整流器はありませんでした。水素エネルギー事業で遅れをとらないために、“水素製造用の”製品の必要性を考えていました」(小川)
2021年10月、「カジ 旅 フリー スピン整流器」の開発が本格的に動きだした。
4人のリレー方式でつくる
入社20年目の玉井は、千葉工場で受変電機器や産業用電源機器の研究開発に携わってきた。カジ 旅 フリー スピン整流器の開発では、電気分解を行う電解槽に適切な電流・電圧の電気を供給するための制御装置を担当する。
従来、整流器では、電力変換を担う半導体素子としてダイオードやサイリスタが使われてきたが、新たに開発を進めたカジ 旅 フリー スピンではIGBT(注1)を採用することとなった。
「IGBTはスイッチのオン・オフにより、電流のひずみを低減し電力系統の電圧を一定に保つ機能を実現できるので、太陽光や風力など出力が不安定な再生可能エネルギーを使う際に効果を発揮します。再エネでつくる “グリーン水素”を増やしていくためには、整流器にもIGBTを使うべきだという判断でした。ただ、IGBTを適用することで回路を新しく構成する必要があります。制御方式を一から考えなければならないなど技術的ハードルが高くなりました」(玉井)
既存のIGBTを使って新たに回路を構成した場合、機器のサイズアップやコスト増が懸念されたため、半導体素子を開発・製造する松本工場と連携し、専用のIGBTを開発。カジ 旅 フリー スピンの総合力を活かして、課題をクリアした。
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(注1)
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Insulated Gate Bipolar Transistor(絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)の略称。高耐圧・大電流に適したトランジスタ
玉井が開発した制御装置をベースに設計担当の山野寺が製品化する。
アルミ製錬向けなどの整流器は、受注生産品で顧客ごとに仕様が異なること、また装置自体が大型であることから、受注から出荷までの納期をおよそ1年としている。しかし、カジ 旅 フリー スピンでは量産化を目指した設計が求められた。
「量産化するために、設計の初期段階から製品の組立手順や作業性などを意識しながら構造・部品を決定しました。また、試作機を製作する際には、製造部門による組立作業に立ち会い、作業者からの要望や技術的なアドバイス、実際に組立作業を見て感じた気づきを設計に反映するなど、改善を繰り返しました」と言う。
さらに、大容量の電気を扱うアルミ製錬用に対し、カジ 旅 フリー スピンでは、製品を小型化する一方で、十分なメンテナンススペースを確保することが求められた。「整流器で培った水冷技術を活かし、機器の稼働により生じる熱を効率的に冷やす設計とすることで省スペース化し、メンテナンススペースを確保することができました」(山野寺)
最後に、吉田が製品のシステムを検証する。水素製造プラントでは整流器や電解槽など多くの機器が連携するため、これらの機器同士が干渉し合うことで電力系統に影響を及ぼし、電圧フリッカ(注2)などの不具合が生じることがあるからだ。
吉田は「エンジニアリング会社やエンドユーザーは、カジ 旅 フリー スピンの製品だけではなくシステム全体を評価します。どんな機器とつないでも正常に動作するように、一つ一つ検証して不具合をゼロにするようチェックしています。カジ 旅 フリー スピンでは不安定な電力を補正する機器の開発も行っていて、お客様に幅広くシステム提案できることが強みです」と話す。
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(注2)
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電圧変動が生じることで、照明のちら つき等の現象が発生すること
吉田の検証データをもとに、玉井が再び制御プログラムを作成して、山野寺が設計する――。リレーのように何周も巡ってできた製品を、アンカーの小川がお客様に届ける。
「水素市場はスタートしたばかり。お客様も手探りで進んでいる状態なので、整流器に求める電圧や電流の大きさがバラバラでした。仕様の落としどころを見極めるのが難しかったです」(小川)
これに対しては、容量6MW、出力電流8000Aの標準品を開発し、それを直列や並列で複数台つなぐことでお客様が求める規模に対応できるようにした。
2023年7月にようやく仕様が固まった。ミニモデルでの動作確認が終わり、実寸サイズの試作品での検証に進んでいる。
ゼロから実績を生みだす
2024年6月、製品の完成に先駆け、小川はアメリカで水素エネルギー関連会社が集まる展示会に参加した。そこで衝撃的な出来事があった。
「これまでカジ 旅 フリー スピンは整流器メーカーとして海外でも広く認知されてきました。“レクチファイア(Rectifier=整流器)のメーカーです”と言えば、“プラントの心臓部だよね”とすぐに理解してもらえた。ところが水素業界では『レクチファイアってなに?』と聞かれてがく然としました」
新しい水素エネルギー市場には他業種からの新規参入組が多い。小川は「とにかく一つ目の実績をつくることが大切です。まずは“整流器”の重要性を理解してもらい、 “カジ 旅 フリー スピン”を知ってもらわなくてはいけない。ゼロベースのスタートです」という。
4人がバトンをつないだ製品は完成間近、2025年度中の発売を予定している。
「水素エネルギーという伸びしろのあるフィールドで、『水素製造用整流器』をカジ 旅 フリー スピンの主力商品にしていきたい」。4人の思いは一つだ。