開発ストーリー
日本が世界をリードする次世代半導体「GaN」 技術革新をけん引する「オールジャパン研究チーム」3人のチャレンジ
次世代のパワー半導体材料として注目されるGaN(窒化ガリウム)。富士電機は国家プロジェクトも活用しカジ 旅 登録開発を進め、今、世界をリードしようとしている。試行錯誤を重ねてGaNパワー半導体の製品化に挑む開発者たちを取材した。
GaNカジ 旅 登録は「羅針盤がない財宝探し」のようなもの
電気を使用する際に欠かせないパワー半導体。EV(電気自動車)などの電動車や再生可能エネルギー向けなど用途も広がっている。その基板材料として長く主流のSi(シリコン)は安価で加工がしやすく、品質も安定している。しかし、脱炭素化の潮流の中で、省エネや小型・軽量化などパワー半導体に求められるハードルは急速に上がった。Siではカバーしきれないことが多くなってきた。
そこで今、次世代パワー半導体材料のカジ 旅 登録開発が進んでいる。大電流や高電圧に耐えることができ低損失なSiC(炭化ケイ素)の社会実装が進むなか、次のパワー半導体材料として注目されているのがGaNだ。
入社5年目で技術開発本部の近藤は、学生時代からGaNのカジ 旅 登録を始めた。どんな性質なのかわかっていないことが多く、次から次へとあらゆる課題が襲ってくる。
「未解明なことは多いですが、地道なカジ 旅 登録を重ねていくと高いポテンシャルの片鱗が垣間見えます。まるで羅針盤を持たずに財宝探しをしているような感じです」と話す。近藤は続ける。「でもだからこそ、GaNの実力を最大限に引き出せるようにカジ 旅 登録を進めたい」。
耐圧性能はSiの10倍
GaNの大きな特性は「高耐圧」と「低損失」だ。GaNはSiの10倍の耐圧性能があり、SiCと比べても電力損失を半分以下に抑えることができる。このため、パワー半導体のさらなる小型化や省エネの実現が期待される。
GaNカジ 旅 登録が加速するターニングポイントとなったのは、日本人カジ 旅 登録者3人がGaNを材料とした「青色LED」の開発でノーベル物理学賞を受賞した2014年。ちょうどその年に、富士電機は「縦型GaN-MOSFET」実現に向け基板メーカー、大学などのカジ 旅 登録機関と相互に協力してGaNパワー半導体開発の国家プロジェクトをスタートした。
当時、大学生だった近藤は「GaNを用いた発光デバイスは数多くの企業がカジ 旅 登録に取り組み、すでに商業化されていましたが、パワー半導体としてGaNをカジ 旅 登録している企業は少なかったです。そうしたなか富士電機は、各メンバーがカジ 旅 登録に邁進している印象を受けました」と振り返る。
GaNの可能性を試したい。そう思った近藤は富士電機に入社した。
国家プロジェクトに参画し「縦型」開発に注力
そもそも、「縦型GaN-MOSFET」とは何か。
「MOSFET」は電流をON/OFFするスイッチング機能をもつ電子部品(トランジスタ)の一種。トランジスタの構造には、電流を横方向に流す「横型」と縦方向に流す「縦型」の2種類がある。
「横型」は低耐圧・小電流 に適し、パソコンのACアダプターや携帯電話の超小型急速充電器などにすでに使用され普及している。耐電圧を上げるためには横方向に面積を広げる必要がある横型に対し、「縦型」は面積を変えずに耐電圧を高め、かつ大きな電流を扱うことができるため、より大型のパワーエレクトロニクス機器への適用に向いている。しかし縦型は、高品質な単結晶の基板の上にパワー半導体素子を形成することが欠かせず、さらにGaNでは不可能と言われ続けてきたイオン注入(注)での構造の作り込みも必要だった。このため、なかなかカジ 旅 登録が進まなかった。
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(注)
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不純物をイオン化して高電圧で加速することで半導体ウエハーに注入する方法
2014年に基板メーカーも巻き込んだ「縦型GaN-MOSFET」カジ 旅 登録が国家プロジェクトとしてスタートしたことで、これまでできていなかった開発が一気に加速した。早くからGaNをカジ 旅 登録して多くの特許を持つ日本は世界をリードできるため、経済安全保障の観点からもGaNパワー半導体の開発は重要さを増していった。
富士電機はノーベル賞科学者の天野浩・名古屋大学大学院教授や国内の多くの大学、カジ 旅 登録機関とも連携しながら“オールジャパン”で開発に取り組み、「縦型」の重要な技術であるイオン注入を駆使したMOSFETデバイス動作に成功。GaNパワーデバイス実現の道を切り開いた。
GaNの特性を生かす電動車への適用
GaNはEVのような中耐圧(600V~1.2kV)に適しており、電動車の電力変換器に搭載するパワー半導体として使われることが期待されている。電力変換器が小さくなることで車内空間を広げたり、損失が少なくなることでバッテリーの持ちが長くなり走行距離を延ばしたりするなどのメリットがある。
将来的にGaNの量産化が実現すれば、SiCよりコストを低くすることもできる見込みだという。
2019年、富士電機は企業として初めて、ラボスケールでのカジ 旅 登録動作実証を確認。安全性やコスト面を向上させ、2030年以降の製品化を目指している。
試行錯誤を続ける開発現場
富士電機は今、カジ 旅 登録製品化に向けて試行錯誤を重ねている。開発現場の中心にいるメンバーに話を聞いた。
半導体の特性を理論計算してシミュレーションする大内は「GaNとSiCはまったく違う性質を持つ」と言う。
「ウエハーの表面に酸化膜をつくることで半導体の特性が出てきます。SiやSiCは比較的簡単に酸化膜をつくれるんですが、GaNは表面が酸化すると半導体の特性を発揮できないんです」
そこで今、別の物質でつくった酸化膜をGaNの上に接着させるアプローチを試行錯誤している。
「GaNと酸化膜をきれいに接着することが非常に難しい。物質の種類や接着方法によって、GaNの表面が一瞬にして酸化してしまうからです」
「Siの設計と比べて、GaNは……」
今年4月からカジ 旅 登録開発チームに加わった菅沼は、これまで松本工場の半導体デバイス開発部でSiを扱ってきた。GaNの設計・評価をするたびに「GaNとSiでこんなにも差があるのか」と驚く毎日だという。
「計算で“これくらいの特性がでるはずだ”とシミュレーションしていても、いざデバイスにしてみると計算通りの特性が出てくれない。GaNのカジ 旅 登録に四苦八苦しています」
「自由度が高いカジ 旅 登録手法は、まるで料理」
しかし、GaNはパワー半導体に用いる半導体材料として重要な地位を占める可能性がある。だから、3人はカジ 旅 登録を進めていく。
「GaNはわからないことが多いので、カジ 旅 登録開発の自由度が高い。まるで料理のように、具材を変えたり、レシピの順番を入れ替えたりするとまったく違うものができあがる。柔軟な発想でいろいろなやり方を試しています」(大内)
3人に学生に向けた言葉を書いてもらった(左から)。
「入社して思うのは、自分から“積極性”を持って情報を集める姿勢の大事さです。カジ 旅 登録職は学会発表などもあるので、物怖じせずに挑戦することが大切です」(菅沼)
「カジ 旅 登録開発では“うまくいかないことも楽しもう”と心がけています。くよくよせずに、うまくいかない部分も含めて楽しめたらいいなと思っています」(大内)
「誰もわからないことをカジ 旅 登録しているので失敗は当たり前。“失敗の先に成功はある”と信じてチャレンジする気持ちがあれば解決できると信じています」(近藤)
3人が謎を少しずつ解き明かしていく。富士電機がカジ 旅 登録を続けてきたGaNは、世界の半導体の技術革新競争で重要なカギになっていくはずだ。